interview

自分達で決断できる、ちいさな世界

中村佳太さん・まゆみさん 焙煎所 / ふたり

2020.05.26

この地、この仕事を選んだきっかけ

“良い感じのタウン“を求めて

佳太さん(以下K):移住のきっかけは、結婚と東日本大震災です。震災に関係なく、結婚したなら、一緒にきちんと結婚生活を送りたい派だったのですが、僕が仕事が忙しくて、家に居る時間が少なかったんです。そんなモヤモヤしているときに、震災が起こりました。
震災後の混乱の中で、大都会のマイナス面をより実感して、二人で一緒に何かをしようと考えると、東京を離れようかという発想になり、移住を考えました。
移住先は、結構探しましたね。何らかのお店をやろう、と最初から思っていたので、それがイメージできるところ。シティじゃなくて、良い感じのタウンに行きたい。できれば、自然との距離がそれなりに近くて、車が無くても生活できるところ。そういう基準で探すと、意外と無くて。

まゆみさん(以下M):大山崎を電車で通過するときに、緑があって、すごく雰囲気の良い場所だなと、ずっと思ってはいたんです。私は何回か来たことがあったので、大山崎が素敵な街だったっていう記憶はありました。

K:僕は、初めて来たときに何も情報は持ってなかったんですが、大山崎って、サブじゃないハイカルチャーの街なんですよね。
古くからある大山崎山荘美術館や聴竹居などの文化人たちが集まってきたカルチャーと、いま「山崎ビオマルシェ」を一緒にさせてもらってる森さん達(*)が、この10~20年でつくってきたカルチャーのどちらもある。知らず知らずのうちに魅了されていたんだと思います。

右手がJR山崎駅。京都市内に比べ、山が近く空が広い。

職住一体の働き方・暮らし方を選んだワケ

生活も人生も、自分で管理したい

K:僕は、初めて来たときに何も情報は持ってなかったんですが、大山崎って、サブじゃないハイカルチャーなんですよね。
古くからある大山崎山荘美術館や聴竹居などの文化人たちが集まってきたカルチャーと、いま「大山崎ビオマルシェ」を一緒にさせてもらってる森さん達(*)が、この10~20年でつくってきたカルチャー、知らず知らずのうちに魅了されていたんだと思います。

M:大前提として、二人とも家が大好きなんです、昔から。できる限り家にいたい。移動時間が無い今の暮らしは、半分家みたいなものなので最高ですね。家にいる時間が長いので、居心地は大事にしています。

K:僕も、趣味がテレビを見るか本を読むかなので、やりたいことが主に家にあるんですよね。あと、焙煎って下準備があるから、時間あるから焙煎しちゃおうか、というのができないんです。だから、家と職場が近くても、オンオフが切り替わらないということは無くて、業種的に割り切れる。

僕らは、だらだら仕事したくないっていう欲が強いんです。その欲が、二人で一致していますね。少しでも移動時間を減らしたいので、今の暮らしはすごく効率的です。
それと、「仕事も家族も二人でよくできますね」って言われるんですが、東京で生活してる方がうまく合いませんでした。ずっと一緒にいる方が、すれ違いが起こらないんです。

生活も人生も、できるかぎり自分で管理したいんですよ。職住一体になって、それがより叶いましたね。他人に決められるのがストレスで、全て自分達で決断できる。そういう意味で、職住一体って、全空間のなかで自分達の時間をコントロールできるので、合っているなぁと思うんです。

居住部分。二人が好きなテレビが存分に楽しめるよう、大きなソファが。

職住一体の暮らしの良いところ・悪いところ

焙煎という仕事と、だらだら働きたくない性格上の必然

M:うちは職業柄、焙煎をする前に温める余熱の時間や下準備の時間があって、ロスタイムがあります。冬場だと40~50分かかる。火を止めずに、ずっと回してる方が効率が良いんですよね。今の職住一体の暮らしになってからは、家のことを中心にして、余熱が完了できています。

前はお弁当を作るために朝早く起きないといけなかったけれど、今は、そういう意味で、家があることで、忙しさがちょっと減る感じがあります。

K:焙煎所って、店であり、作業場なんですよね。飲食などとは違う作業系の仕事には、待ち時間があるから、職住一体の必然性があるんですよね。

M:以前は、次の日を楽にしようと思って、ついつい作業を続けちゃうことも。その結果疲れて、次の日グダグダになっちゃう。

それを辞めるために、終業時間になったらアラームを鳴らすことにしたんです。「今日は何時に仕事を終わる」って決めて、携帯でアラームを鳴らす。こんな単純なことなのに不思議と、終わんなきゃって気になるんですよ。

特に二人なので、時間を決めていてもどちらかが仕事をしてると手を止めなくて、気づいたら時間が過ぎてるって事も多かったんですが、アラームがあると、お互い同時に手を止めるきっかけができる。ハッピーな音楽のアラーム、思いのほか効きますよ!

K:職住一体の僕らの唯一の課題とするならば、運動不足ですね。自転車や歩きなりで使ってた体力が無くなり、なまったなと自覚しています。最近、ヨガマットを買って、ヨガをはじめました。でも、夏に自転車を10分間漕ぐストレスが無くなったことは、運動不足よりはるかに嬉しいですけどね。

仕事をしながら、かけ合いながらインタビューに答えてくれる中村夫妻

職住一体をしようとする人へのアドバイス(番外編)

職住一体、資本主義への挑戦

K: 僕は、資本主義を趣味で勉強しているので、その観点の話を。

江戸時代とか昭和の中頃までは、日本では職住一体若しくは近接の方が一般的で、家と職場が離れた暮らしが主流になったのは戦後、高度経済成長以降なわけです。今はそれが当たり前になっていますけど、エネルギーや環境、色んなものを無駄にしている。徒歩で行ける範囲内に働く場所と家があるっていうのは本来、それなりの割合の人にとって、過ごしやすい暮らし方の形なんじゃないかなって思うんです。

東京流の都心に働きに出て郊外に住むというスタイルを支えているものが、いま、支えきれなくなってきているのかもしれないですね。小商いを志望する人が増えているとすれば、そういうスタイルを支えてきた憧れが崩壊してきている。震災やコロナとかがあると、会社員制度や満員電車の通勤など、これまでの当たり前にみんな疑問を持ちますよね。

疑問を持ったとしても、都市ではその仕組みに合わせないと生きていけない。ただ、それが合わない人にとっては、少なくとも何とかするべきじゃないか、とよく考えます。

資本主義と職住一体の関係って、すごく重要だと思っています。資本家と労働者を分けて、労働者が資本家に雇用されるということが、資本主義が発展するうえでは欠かせなかった。つまり、雇用主の所まで働きに行って職住一体でなくなる流れは、資本主義が発展するには必然だったわけです。

その論理だと、資本主義が発展し続ける限り、職住一体は成立しないはずだった。何かモノを作りながら同じ場所に住めるというのは、僕たちのように、多くの場合は雇用されないですよね。資本主義に飲み込まれない生き方をしようと思った時に、考えだけじゃなく、物理的にグローバル資本主義と切り離せる手段に、職住一体はなり得るのかもしれない。

そう考えると、結果的にたまたまですけど、僕も資本主義に抗う方法を実践していることになりますね。

*2003年からJR山崎駅前にて生活雑貨と料理教室のお店「Relish」を主宰する料理家の森かおるさん。2019年10月には「Relish食堂」をオープン(大山崎 COFFEE ROASTERSのすぐそば)。毎月10日には手作り作家などが出店する「山崎十日市」を、毎週土曜日朝には「山崎ビオマルシェ」を主催し、大山崎を語るに欠かせない存在。

【情報】
大山崎COFFEE ROASTERS
店舗の営業時間は、木・土の10:00~15:00。

(2020.3.5取材)

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