interview

リモートワーカーだからこそ、据える場所を求めていた

杉田真理子さん 事務所 / ふたり

2020.06.10

この地、この仕事を選んだきっかけ

住みたい街のチャートをつくる、理想の一日をワークショップする

私は編集者・リサーチャーとして、パートナーのジャスパーはUXデザイナーとして仕事をしています。二人ともフリーランスで、主に家でできる仕事です。私の仕事は、建築・まちづくり・都市分野でのライティングや翻訳、リサーチの他、メディアと組んだ編集の仕事も多いです。

前職では3年ほど東京で働いていたのですが、ちょっと疲れてしまって。楽しかったけど、消耗した感じがあり、働き方としては合っていないなと思いました。

そこで、一気に辞めて、パートナーと、アメリカ・カナダに拠点を移しました。リモートで働きながら、メキシコとか6か国ほど転々とした生活を送りました。今までリモートワーカーって、自分とは全く関係のないワークスタイルだと思っていましたが、実践してみたら、意外と食べていけるなっていう実感で。

その間、Airbnbを利用して暮らしていました。Wifi環境が整っていて、キッチンともう一つ部屋がある所を予約して、そこを仕事場にしていました。1年間やってみて、楽しかったですが、拠点のないノマドワーカーの大変さにも気付きました。銀行・投票・税金何でも、一拠点の定住者向けに社会が作られていますから。

メキシコに2ヶ月位滞在していた時、「この次は、ちょっと長めに据える場所を探したいね」と二人で話し合って、住みたい街のチャートを作ったんです。他の候補は、東京・長崎・コペンハーゲン・サンフランシスコとか。たとえば、自然がある・家賃・モビリティ等でポイントを付けたら、京都が一番だったんです。2019年3月に、京都に住むつもりで、日本に戻ってきました。

京都に移ってからは、自分たちにぴったりなエリアと価格帯の物件を探すのに、数ヶ月かかりました。自分たちにぴったりな住まいの形態やライフスタイルを見極めるため、理想の一日を描くワークショップを二人でしたんです。朝起きてまず何をするのか、どんな音楽を聞くか、家を出たら何があるか、どんな食生活か、平日働く場は家なのかオフィスなのか。そしたら、フルタイムで会社で働き、朝オフィスに行って夜帰ってくるっていうライフスタイルは、二人とも眼中にないことが分かって。さらには、二人きりじゃなくて、もう一人くらいと一緒に生活できると面白いよねとか、ちゃんとしたごはんを作れるキッチンスペースが必要だねとか、そういう細かい要件を洗い出してから、具体的に物件を探していきました。色んなご縁があって決めたこの物件での生活は、かなり充実しています。

家の前には小川が流れ、目の前は公園という自然あふれる環境。

職住一体の働き方・暮らし方を選んだワケ

メディアの場所版を作りたい

一年の半分くらいは海外に行くことが多いので、その間に又貸しができたり、自分たちを縛り付けない場所を持ちたいと思っていました。そこで、転貸可、かつワークショップやギャラリーとして使えたり、100平米位で二人で住むよりちょっと広いくらいで、DIYで自分たちでも改修できるような、わがままな条件で物件を探していて。めちゃくちゃ調べたんですが、不動産屋には、全然無いですと言われてしまい…絶望的でしたが、ここは、友人が間に入ってくれて、大家さんの理解のもと、借りることができました。

転貸するというのは、大家さんからすると不安だと思うので、どんな人に来てもらいたくて、どんな使い方をしたいのか、プレゼンにまとめて大家さんに説明しました。プレゼン時に使った言葉が「アーバニスト・イン・レジデンス」という言葉です。今もWEBサイトで使っています(*)。「アーティスト・イン・レジデンス」という言葉はずいぶん浸透しましたが、私は建築や都市デザインが専門なので、その界隈の方々が来て泊まれて、京都でリサーチしたり、地元の人と交流したり、ワークショップを企画したり、滞在の最後にプレゼンをしてもらうえるような場所があれば、というのが考えとしてありました。

私は自分のメディアでも海外事例を紹介していますが(*2)、日本では、参照レベルで終わってしまうのがもったいなくて。消費されて終わってしまう。でも、それが、人レベルで実際に会えたら、コラボレーションしてみようとか、もっと建設的な議論ができるかもしれない。そういう風に思っていました。メディアをずっとオンラインでやっていたので、メディアの場所版みたいなものが欲しいねと、パートナーとも話していたんです。

 

主に貸したりする場所。二面採光で気持ち良い空間。菜園スペースには柚子が!

職住一体の暮らしの良いところ・悪いところ

面白い人に、外に出ずして出会えてしまう

二人の部屋以外に、もう一つ寝室があるのが良いですね。既に、建築・都市関係のリサーチャーやアーティストがここに滞在することが決まっています。この部屋があることで、プライバシーも侵されないですし。二人ともフリーランスだと一緒にいる時間が長すぎるので、もう1人誰かいた方がバランスが取れるんです。常に新しい風を入れることを意識しています。

1階のスペースは、イベントやギャラリー、ワークショップなど、面白い活動には基本無料で場所を開放しようと思っています。そうすると、面白い人たちに、外に出ずして会えるんじゃないかと思います。そういう環境を自分たちで作れたことは、大きい変化です。現在、一週間に一回位は、ミートアップなど、利用の予約が入っています。

場所があるおかげで、ネットワークが作りやすくなったなと思います。フリーランスってネットワークが重要じゃないですか。今まではイベントに自分から出向いて名刺交換して、ということが多かったんですが、面白い人たちに何かのきっかけで会ったら、「今度、遊びに来てくださいよ」って言える。一緒にご飯を食べたりすると一気に仲良くなったりして、気軽に来てもらえる場所があるって結構大切だなと思って。玄関を開けたらすぐキッチンっていうのも、いきなり腹のうちを見せるようで、良いなぁと思っています。

1階がセミパブリックで、2階がプライベート・オフィス。空間としてもメリハリを利かせていて、モードの変化を意識的に作っています。人が頻繁に来るからこそ、家をきれいに保とうっていう緊張感があるのも良いですね。ちょっとパブリックな要素が家の中にあると、背筋が伸びます。

それと、DIYできるのが良いです。少しづつであれ、自分たちが住み、働く空間を自らアップデートできるっていうのは、すごく面白いなと思います。建築家にすべてお任せで頼むのではなく、好きなものをブリコラージュしていく感覚が気に入っています。

リノベーションって、思ったよりもすごく時間と手間がかかることも学びました。古い一軒家なので、やはり手間はかかります。先日、柱を柿渋で塗ったんですけど、プライマー塗って、柿渋に炭を混ぜて塗って、乾くのにも時間がかかったり。いろんな実験が、素人ながらできるのが嬉しいです。

 


2階の二人のオフィススペース。ほとんどが帰国後に買い揃え、リサイクルショップなどで調達。

職住一体をしようとする人へのアドバイス

これからは、公共的な空間が家に戻ってくる時代

今回の経験で、職住一体って、物件さえ見つかれば意外とすぐできちゃって、そこまでハードルが高いものではないと気付きました。オフィスワーカーには、職住一体なんて遠い世界の話だと思ってる人も多いかもしれませんが、そうではないと思うんです。家賃も、一軒家とオフィスを一緒に借りると思えば別に高くないですし。フルタイムで働く会社員も、趣味の部屋や、週末の勉強の部屋にもう一部屋をちょっとプラス何万円かで借りられる。自分の家でミートアップなどができたり、活動につながっていくって考えたら、結構安くないですか。

外でイベントをするって、会場費や席を埋めないといけないとか、結構しんどいですよね。自分の家でするイベントだったら、そこまで気にしなくていいんですよ。家くらいのパーソナルな場所だったら、人数なんて集まらなくてもいいし、会場費を考えなくてもいい。良い意味で、緩く活動が続けられる。

コワーキングスペースやシェアスペースって、近年で増えたじゃないですか。その次の社会を考えたときに、これからは、公共的な空間が家に戻ってくる時代なのかなと思っています。もっとパーソナルな、でもコモンな場所が欲しいってなったときに、職住一体ってすごくいいなって思います。


お気に入りのベッドサイドスペース。ここでコーヒーを飲みながら公園を眺めるそう。

 

 

【情報】
*杉田さんがパートナーと運営する場のメディア
Bridge to Kyoto

*2 
世界中の各都市から街づくりや建築に関するトピックを取り上げ、日英バイリンガルで紹介しているメディア 
Traveling Circus of Urbanism  

(2020.3.6取材)

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